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2024.05.14Vol.637 欧州旅行記

 2019年の秋に東欧を訪れて以来のヨーロッパ旅行であった。その時同様に、近くに住んでいる母に3人の息子たちの面倒を見てもらい、妻と2人で満喫してきた。スイスを主な目的地とし、行きも帰りもフランクフルト空港を利用した関係でドイツにも数日間滞在した。実は、2020年の春に6年生になる長男と2人でパリに行くはずだったのだが、コロナでロックダウンされたため実現できずじまいであった。当時のフライトに関するメールが残っていたので確認してみると、3月25日発4月6日着とあったので約2週間の予定であった。どのタイミングで長男が中学受験をすることになったのかを忘れてしまったが、一つ確かなのは、少なくとも一年を切った時点ではそんなゆるい向き合い方であったということである。
 日本を発つ前の2日間で、村上春樹『街とその不確かな壁』、田内学『きみのお金は誰のため』、今野敏『スクープ』を読み終えた。それぞれ数か月、数週間、数日前から手を付けていたので、読書量としてはそこまで多いわけではない。ただ、かなり大袈裟に表現をすれば「ギアを上げた」のは間違いない。理由は単純で、旅行に持って行くには重量的に冊数を限定する必要があるため途中のものはふさわしくなく、また、2週間以上も間が空くと忘れてしまいそうだったからだ。いつもはその時々に気の向いたものをちびちび、だらだらである。それ以外に、中2の二男に「旅行に行ってる間にこれ読んでおきな」と『きみのお金は誰のため』を渡したかったというのもある。そろそろ読書の幅を広げて欲しいからだ。別に、その本がそれに最適だったというわけではないが、少なくとも悪くはなかった。ちなみに、高一の長男には、「当分手を付けられそうにないから」という理由で、自分で読もうと買ったままになっていた『資本論』を与えていたのだが、「難しくて中々進まない」という感想を漏らしていた。勧めたものを手に取ってくれているだけで単純に嬉しい。
 『街とその不確かな壁』のあとがきに「ホルヘ・ルイス・ボルヘスが言ったように、一人の作家が一生のうちに真摯に語ることができる物語は、基本的に数が限られている。我々はその限られた数のモチーフを、手を変え品を変え、様々な形に書き換えていくだけなのだ―と言ってしまってもいいかもしれない。」とあった。意見作文に取り組んでいる生徒に、「一人の人間が考えることなんてそんなにバラエティに富んでいるわけではない。だからと言って、同じような内容を繰り返すのではなく、様々な例などを挙げながらそれについて述べる必要がある」と話すことがある。生徒は、どのようなテーマが与えられても、サッカー、ピアノなど、自分が日頃力を入れていることと絡めてしまいがちだからだ。自分の得意なところに引っ張り込めば文章が生き生きとし、説得力が増す場合が多いが、小論文試験対策の、しかも仕上げの時期を除いてはそのようなことをせずに、引き出しの量、質ともに豊かにすることに注力した方が良い。あとがきに関することに話を戻す。ロールケーキのスポンジと生クリームはそのままに中身のフルーツをただ変えるのではなく、ほとんど同じ材料を使っているとは思えないような味、食感、見かけなどが異なっているケーキを提供する工夫をするべきなのだ。具体的にそんなものが存在するのか、するとすればどんなケーキとケーキがそのような関係にあるかを提示するだけの知識がないので、私のイメージが伝わることを願うのみである。
 旅行は非日常であると言われる。それは、出発前の少し気合を入れた読書から始まっていたことになる。大学生の頃は1回生から毎年1回は建築を見るためにヨーロッパを旅していた。今回で10回目ぐらいになるだろうか。25年前と比べて、とても大きな変化があった。フィレンツェの街を一人歩いていると、後ろから日本人の若い女性3人組が、ブランド物の紙バックを肩からたくさんぶらさげながら、「ジャパンマネーの力を見せつけてあげたわよ」とか何だか口にしながら、私の横を通り過ぎて行った。ヒールで石畳をカツカツと叩く音を聞きながら、「大して観光もせえへんのやったら、飛行機代使わんと日本で買った方がトータルでは安くなるのに」と心の中でつぶやいていた。当時は確かに、本場で買った方が安く手に入れることはできた。今回は、とにかく日本人に会わなかった。今年のGWは大型連休では無かったにせよ、中国人、韓国人と比べると少なくとも日本人の方が休みを取りやすかったはずである。ふと、レストランに行って「日本語のメニューはありますか?」と聞くこと自体が無くなっていることに気づいた。
 日本経済の衰退を嘆きたいのではない。円安が加速し、それを食い止めるために日銀が為替介入したおかげで旅行中わずかながら円高に動いたことがあった。そんな短期的な小手先の対策だけではなく、日本政府はもっと大きなビジョンを持つべきだ。これからも人口が減って行くことは明らかなのだから、輸出企業は円安を大いに活用して今のうちに力を蓄えれば良い。自動車メーカーのように多くの下請け工場を国内に抱えている場合は、彼らにもきちんと還元しなければならない。経済産業省が価格交渉・転嫁に後ろ向きな大企業を実名公表しているが、そんなものは彼らにとって痛くも痒くもない。政府が、国内でビジネスを行っている中小企業をどのようにサポートしていくかが大事なのだ。その他、TSMCのように、海外企業の誘致も積極的に行うことも打つべき手の1つである。
 また、物価が安いことを理由に海外からの旅行者が増えているので、それ相応の入国税なるものを設ける。各自治体でオーバーツーリズムの対策をするのとは別に、国としてやるべきである。現在は、「国際観光旅客税」という名目で、国籍を問わず、日本からの出国1回に付き1,000円が徴収されている。外国籍の人が観光目的で入国するに際に、一人1回1万円、それに加えて1日当たり2,000円課したとしても、外国人観光客は減らないはずである。政治家が、国会閉会中に外遊し、エッフェル塔を背景に写真を撮るのは良い。ただ、誰かが決めた日程通りにスケジュールをこなして、ツアー客のようにバスに乗って移動し、美術館に入る際には配られたシールを胸のところに貼るだけでは何も感じられない。中身のないレポートを個人のオフィシャルHPで公表しても価値はない。食費を1日5,000円に限定して、3日間だけでもそれで過ごしてみれば良い。日本であれば、朝、昼、夜それぞれ500円、1,500円、3,000円でそれなりに飲み食いすることはできる。しかし、スイスだと、どの店に行くかにもよるが、朝のパンとコーヒーだけで普通に1,500円ぐらいにはなる。5,000円に収めようとすれば、そのようなものを3回繰り返すことになる。私がある教会について調べたとき、10年ぐらい前の記事がヒットして、4スイスフラン(約420円)とあった。それが5フランに値上がりしていて、しかも1フラン=175年だったので、日本円に換算すると875円と2倍を超えていた。その間、日本の給与水準にほとんど変化はない。(つづく)

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