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2021.06.01Vol.496 憂国

 Vol.494で紹介した柳川範之著『東大教授が教える知的に考える練習』に倣えば、コロナに関する報道には知的に考えるための練習材料がゴロゴロ転がっている。情報に受け身な人でも、テレビで連日連夜これだけ代り映えのしないニュースが流されっぱなしになっていると、さすがに疑問を持ち始めるのではないだろうか。それは考えることのスタート地点に立ったことを意味している。これだけ長期に渡って、同じテーマがメインで扱われ続けたことは記憶にない。オウム真理教の地下鉄サリン事件や東日本大震災でもこれほどではなかっただろうし、少なからず進展があったはずだ。
 最近すごく気になり出したことがある。一体この国には長期的な視点でコロナ対策を考える役割を担っている人がいるのだろうか、と。私はしばしばスポーツに例を取るのだが、あるお母様から「スポーツの話が出てくると頭がロックする」とやんわりとクレームをいただいたので、「前に伝えましたよね」とお叱りを受けないようにほとぼりが冷めるまでは別のものを。運転をする際には、目の前ではなく遠くの方を見るように教わる。それも経験を積んでからではなく、自動車教習所で既にそのように習うのだ。それは2つのことを示唆している。1つは、一部の人を除き、遠くは意識しないと見られるようにならないこと。そして、もう1つが、遠くを見ようとすることで目の前で起きうることへの予測の精度が上がり、適切な判断がしやすくなること。目的地も定かではない多くの人たちが、目の前だけを見て運転をしていたらあちこちで事故が起こるのは当然のことである。
 卑近な例で言えば、高槻校を出すための準備を少なくともその1年以上前からしていた。ただし、していたのは講師を採用して育成することのみ。だからと言うわけではないが、生徒は全然集まっていない。既存の西宮北口校、豊中校に新たに応募してきて、かつ京都の大学に通う学生には、「学校からの帰り道に寄ってもらうことは可能でしょうか。阪急高槻市駅の近くで物件を探す予定です」というようなことを面接の際に伝えていた。その結果、高槻校に出勤可能な3, 4人を含めて大学2回生が両校合わせて10人もいる。4回生が2人であることを考えると、この1年でいかに多くの人を採用したかがお分かりいただけるはずである。途中で辞める人がいないわけではないが、その多くが卒業まで勤めてくれるのでほぼこの数字で行くはずである。これまで何度か述べてきたが、人が足りていても良い人がいれば採る、足りていなくても良い人で無ければ採らない、というのが我々の方針である。また、希望している回数、曜日に入ってもらえるように時間割を組むようにしている。週1日を希望する講師に3日お願いすることもなければ、その逆に3日希望しているのに1日だけしかお願いしないということもない。申し訳ないことに1日ぐらいのずれが生じることはあるが、希望している以上に働いてもらわないようには注意している。無理がたたると長く続けてもらえなくなるからだ。物事には良い側面もあればその反対もある。人余りの状況なので、本来は2人しか講師が必要のないところに3人入っていることも少なくない。その場合、各人がきちんと1人当たり1の仕事をこなせば3÷2=1.5なので、理論上、通常の1.5倍の質の授業を生徒たちに提供できることになる。逆に、2の仕事を3人で分担すれば、一人当たり2/3になってしまう。同じ2をするのであれば、1の仕事をする2人で行った方が明らかにその場の空気はピンと張る。さらに、もっと困るのは、早い段階で2/3の仕事の仕方が体に染みつくと、3の仕事が必要になったとき、3人でさすがに2止まりということはないだろうが2.5ぐらいが限界になってしまう。一般的には有事、平時の2段階で語られるが、そこに1つ付け加えて、有事、平時、無事と言った感じだろうか。有事に備えてではなく、平時のパフォーマンスを上げるために、無事の状況でどれだけのことができるか。これが我々の現在地である。こんなちっぽけな塾ですら、少しぐらいは未来を考えながら動いている。
 今回のコロナ対応ほど、日本が技術立国でなくなってしまったことを白日の下に晒した例はないのではないだろうか。それに加えて、先日、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が第三者の不正アクセスを受けて情報システムに関する情報が流出したことが明らかになった。なお、NISCのホームページには次のようにある。
「ITの急速な発展と普及に伴い、 ITは生活のあらゆる部分に浸透し、いまや社会基盤として必要不可欠のものとなっています。ITの重要性が増す反面、ITに障害が起きた場合には、国民生活や経済活動へ大きな打撃を与える可能性があります。さらに近年、官公庁や企業からの情報流出が発生しており、サイバーセキュリティの確保が、喫緊の課題となっています。
このような状況において、2014年11月、サイバーセキュリティ基本法が成立しました。同法に基づき、2015年1月、内閣に「サイバーセキュリティ戦略本部」が設置され、同時に、内閣官房に「内閣サイバーセキュリティセンター(NISC※)」が設置されました。」
自分達のことすら守れない人たちに何を期待すればいいのであろうか。しかも、これは当然の帰結なのだ。2018年の時点で、NISCは非常勤の技術者を日給8,000円で募集している。常勤のデータは見つけられなかったが、驚くような額ではないはずである。海外では年収が1億を超えることもあるとのことなので太刀打ちできるはずがない。
 理系、文系という分け方は好きではないが、もう少し科学技術に明るい理系出身の人を国のトップに据えればいいのではないだろうか、と考えた。鳩山由紀夫、菅直人はその条件を満たしていた。間違いに気づいた。日本は政治家ではなく、官僚が政治を支えていることを思い出したからだ。そして、文科省と総務省(NISCの管轄省庁)の新卒採用の出身学部を調べると(2013年のものなので少し古い)、理系はわずか10%強しかいないことが分かった。種は一体どこに蒔かれているのだろうか。バイデン政権は、来年度の予算案として「科学研究や再生可能エネルギーなどの国内向けプログラム」として前年度比で16.5%の増額を要求している。財源の問題などはあるのだろうが、少なくともそこにはメッセージはある。大胆であれば良いわけではないが、そういうダイナミックさが今の日本には求められているのではないだろうか。
 エネルギーなどの社会問題に関する作文をしている生徒に伝えることがある。絵に描いた餅ではなく、少しでも自分のできることを書きなさい、と。それぞれの生徒の未来を想像し、今何をするべきかを考え、それを実践していく。それは、私にできることであり、志高塾にできることである。

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