
2026.09.29Vol.752 人生の折り返し地点
前回の引用から。
「旅行中の3日間は直島と豊島にある美術館を訪れる以外にはほとんど何もしないはずである。いつもと違う環境に身を置くことで、宙ぶらりんになっていることの中から1つぐらいは、『あっ、そういうことか』となるものが出て来てくれるかもしれない。」
出発を1日早めて結果的に3泊4日の旅となった。今回はその旅行記にする予定にしていたのだが、宿を構えた岡山県玉野市の宇野港にある寿司・割烹店のことだけに焦点を当てることとする。
1日目の火曜の夜にまずは本店を訪れた。連休期間中は市場が閉まっていて、かつ、翌日の水曜は店自体がお休みとのことで、残っている食材が少なくできるメニューがかなり限られるということを注文の前に謝罪された。10巻ぐらいの寿司のセットを注文したら、同じネタのものが確か2種類ぐらいはあったが、事前に事情を聞いていたし、おいしかったのでまったく問題はなかった。最後は私一人になり、カウンター越しに大将とおかみさんと少し話をさせていただいた。翌日に豊島美術館に行くこと、それが楽しみであることを伝えると、設計者である西沢立衛が以前にお店に来たことを教えてくれた。何でも、奥さんは先にそれを見に来たものの、当の本人は開館後3年経ってようやくその機会を得られたとのことであった。少し話はそれるが、情報というのはその事実から何を得られるのか、ということが重要である。数日前に「シーズン“無冠”の大谷翔平」というタイトルのネット記事を目にした。何も考えずに読めば「ああ、今年は無冠だったの」で終わるのだが、逆に言えば、タイトルを取ることが当然のように思われているということである。同様に、世間の注目を集める建物であるにも関わらず3年も要したということからは、それだけ世界中でいろいろなプロジェクトに関わっていて忙しいということが分かる。「分かる」と断定したものの、これに限らず実際にどうかは定かではないことが少なくない。私は決して難しいことは考えないのだが、自分の身の回りのことについて自分なりに理由とセットにして推測してみることは頭の体操になる。大谷の話で言えば、「来年は打者に専念して何かしらのタイトルのではないだろうか」もしくは「大谷の性格上あくまでも二刀流を貫く可能性が高く、年齢的な体力の衰えもあるから今年以上に成績を落とすのではないだろうか」などとなる。スポーツは特に数字で結果が出るので、その答え合わせがしやすい。単に、当たった外れた、で終わるのではなく、当たっていたとしても理由が違うことがあり、外れていたとしても良い線を行っていたということもある。テスト同様、きちんとやり直し、考え直しをして初めて自分の血となり肉となる。
閑話休題。帰り際おかみさんから、明日うちはお休みなので、是非大将の弟さんがやっている姉妹店に行ってみて下さい、と勧められた。しゃりもあえて2つの店で違いを出しているということであった。翌日、その店に向かいながら、「明日は、おいしかった方にもう一度行こう」と考えていた。カウンターには私1人だったものの、後から団体客が来るのかその準備に忙しそうだったので、邪魔をしない程度に前日にお兄さんの店で食べたことなどを話すと、「兄貴はほんとすごいですよ。本当によく仕事をやります」、「私は56歳で、兄は9歳上です」ということなどを教えていただいた。会計の際、おかみさんに「兄弟で同じ仕事をしているとライバル心を燃やしそうなものなのに、お互いに一目置きあって仲が良いってすごいですね」と伝えると、大将に聞こえないような小さな声で「それは最近のことで、若い頃はバチバチでしたよ」と返って来た。
私は弟さんの店の方が気に入ったものの、連休期間中は休みなく店を開けていたこともあり、イレギュラーで木曜の夜は閉めるとのことであった。3日目の晩、お兄さんの店への道中、「弟さんの店の方がおいしかった、というのは何か失礼だな。どちらがおしいかではなく単なる好みの問題だな」などと考えていた。ちなみに、2つの店は徒歩6分程度、私の泊まっていたところからはいずれの店にも徒歩6分程度。偶然にも、正三角形の3つの頂点の位置関係にあったので非常に便利であった。当日、予約の電話を入れた時点で私のことを認識してくださっていた。その日もカウンターに座った。外国人の老夫婦が先客としていて、8人ほどは座れるところに我々3人だけだったこともあり、いろいろと話をさせてもらった。アメリカのミシガンから来ていること、18泊の旅行であること、だんなさんの方は75歳であること、息子さんと娘さんはそれぞれ独立して家族を持っているから自分たちは自由であること、など。敬老の日はリスベクトしてもらったというので、「あなたは若く見えるんだから、そんな必要はない」とすかさず突っ込み、少しだけ笑いが取れた。たとえ下手くそな英語でやり取りをしていても、しょうもないことを言ってしまいたくなるのは大阪人の性である。2人はとにかく世界中を旅しているので、「すごいですね」と感想を述べると、「だって、明日バスに引かれて死ぬかもしれないだろ。だから、今できることをやっているんだ。自分が知らなかった新しいことに触れるのはすごく楽しい」と良い話を聞かせてもらった。
20代の頃はヨーロッパの田舎町を訪れても「また来よ」となっていたのが、40代の中頃ぐらいになってからだろうか、国内なのに「もしかしたら、これが見納めかも」という思いが自然と湧き起ってくるようになった。別に感傷的になっているわけではない。「Vol.749子育ての折り返し地点」に倣って「人生の折り返し地点」というタイトルにしただけなので、中身はそれにそぐわない軽いものになっている。一人旅の途中、少し前に「人生では一番大切なことが教えられていない。それは、『いつ死ぬか』ということだ」というのを何かで目にしたことを思い出していた。すると、偶然にも2日ほど前に、サッカー日本代表の元監督の岡田武史の「人生における3原則」という動画(https://www.youtube.com/shorts/Ai4pUZJDCZU)が流れて来た。「人は必ず死ぬ」、「人生は1回しかない」、「人はいつ死ぬか分からない」。いつ死ぬか分からないのだから今できることをやる、というのは頭で分かっていてもつい怠けてしまう。でも、もうちょっと頑張ってみようかな、と少し前向きになるだけのエネルギーが得られた4日間であった。








