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2019.01.15Vol.382 「それ」も含めた多様性

 ヴェイパーフライ4%フライニット。これだけでピンと来る人は中々いないであろう。これではどうだろうか。ナイキズームヴェイパーフライ4%フライニット。スポーツに関わる物かな、となるぐらいで、きっとほとんど変わらないはずである。長距離用シューズの名称である。今年の箱根駅伝出場者230人の約4割に当たる95人が、10区間の区間賞(各区間の1位)を記録したうちの実に7人がこれを履いていた。これらの数字から強豪校の選手ほど着用率が高いといえる。今後、占有率はさらに高まるか、場合によっては他のメーカーが追随してナイキ一強の度合いは弱まるかもしれないが、いずれにしても、しばらくは「この型」のシューズの人気はさらに高まっていくはずである。
 池井戸潤原作の人気ドラマ『陸王』が年末に再放送されているのを偶然目にした。本は読んでいたのだが、ドラマは見ていなかった。思わず引き込まれてしまった。老舗の足袋製造会社である『こはぜ屋』が足袋を元にした裸足感覚のマラソンシューズを開発し、大手のスポーツメーカーと競う、というストーリーである。そのスポーツメーカーの靴も、底が薄くて軽いものである。薄さ、つまり軽さとクッション性を兼ね備えたものを極限まで追い求める、というのがこれまでの理想とされてきた。常識と言い換えてもいいかもしれない。それゆえ『陸王』における靴は『こはぜ屋』の物であろうが、スポーツメーカーの物であろうが、「軽さ」=「薄さ」いう図式が根底にあるのだ。それに対して「この型」とは厚底なのだ。クッション性はもちろんのこと、軽さも追求されている。10、20年前と比べて新しい素材が開発されたことが影響している。少々厚くしたところで、重さは大して増えなくなったのであろう。一言断っておくと、分かったようなことを書いてきたが専門的な知識があるわけではないので、事実と異なるかもしれない。その点はご容赦いただきたい。
 先のナイキのシューズ。推進力が増す、つまり、前に進む力が生み出されやすい、というのはどこかで読んでいたので知っていた。それを踏まえて「4%」というのは、かかとの部分を上げて従来品よりも4%分の傾斜をかけている、という意味だと理解していたのだが、事実はそうではなかった。普通に走るより(きっと、一般的なシューズで走るよりも、という意味なのであろう)も4%の推進力が増す、というものであった。余談ではあるが、5%, 10%などより、4%の方が実質的な感じがする、ということで、この数字に決まったのではないだろうか。
 この一連のニュースに接したとき、頭に思い浮かんだのは2つ事柄である。一つは、厚底というのが画期的であること。逆転の発想と呼んでもいいかもしれない。もう一つは、数年後に故障を発症しないかと言うことである。推進力を獲得することの代償にどこかに無理が生じた結果致命的な怪我を負ってしまう、ということである。靴の特性を生かすために若干ではあるがフォームを変更する必要がある、というのをどこかで読んだ。これも真偽のほどは定かではない。一流のスポーツ選手にとっての一番の敵は故障である。プロ野球のピッチャーであれば、肩、肘である。それゆえ、高校野球では常に「球数制限」ということが話題に上がる。あの松坂大輔は、メジャーリーグのピッチャーマウンドの土が日本よりも硬いせいで、日本の時のようにグッと踏み込まずに歩幅を狭めた。踏み出すことによって生み出されていた力を、腕の力に頼ったせいで肘を壊したと言われている。
 長期的な視点に立ったとき、ナイキの靴の良し悪しは私には分からない。ただ、私は、仮にナイキの靴で良い結果が出る傾向にあったとしても、従来の靴を履かせた上でそれなりのタイムが出るように育ててあげたい。もちろん、たとえ話である。箱根駅伝に話を戻すと、10区間の内5区間で新記録が出た。その5人中3人はナイキのシューズであり、残りの2人は違った。5人なので母数は小さいが、4割はその他なのだ。世の中では「それ」ばかりが注目され、「それ以外」には目を向けられない。そして、「それ」だけが成功への唯一の道のように錯覚する。長いものに巻かれるな、と言いたいわけではない。ちなみに「それ」は1種類であるのに対して、「それ以外」は少数派であるにも関わらず、その中でも多種多様なのだ。結果的に「それ」を選ぶにしても、豊かな「それ以外」がたくさんあることを知った上で、自分に合った選択ができるようになって欲しい。

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