
2025.05.13Vol.685 禅房靖寧の全貌
前回の最終段落のおさらいから。
前置きが長過ぎたせいで、一つの問いに答えただけで終わってしまった。次回もこの続きになりそうである。「殻を破る」はいつになることやら。GWは御前崎に釣りに行くことを諦めて、三男と二人で淡路島の「禅坊 靖寧(ぜんぼう せいねい)」で一泊することになった。設計は坂茂である。
『十人十色』でいただいた質問への回答を文字に起こすと大変な量になることが分かったので、近々オンラインセミナーを開いてそこでお答えすることにした。6月中旬に開催予定である。「殻を破る」に加えて、3月に書いた「Vol.678 子育て方針大転換(前編)」の後編にも手を付けられていない。いろいろと先延ばしにしながら、今回は靖寧をテーマにすることにした。
まずは、坂茂(ばんしげる)の簡単な紹介から。建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞の受賞者である。それは1979年から毎年1人(もしくは1組)の建築家(建築家チーム)に与えられるもので、日本人は過去9人がその賞の栄に浴している。彼は紙管を用いて、国内外を問わず被災地に軽くて安くて丈夫なシェルターを建設して来たことで有名である。彼の設計したもので言えば、2023年9月に広島大竹市にあるオープンから半年の下瀬美術館を訪れた。前から気になっている山形県鶴岡市のSUIDEN TERRASSE(スイデンテラス)にも泊まりに行ってみたい。
さて、靖寧。駐車場は敷地から徒歩2,3分のところにある。不便さを感じたのだが、それも騒々しさを持ち込ませないための一つの仕掛けなのであろう。また、少し離れたところに車を停めさせることで、アプローチの過程で建物全体を眺めることができ、期待を膨らませさせるという効果もある。設計者、森に浮かぶウッドデッキでヨガをすること、食事が精進料理であること以外ほとんど何も知らない状態での訪問であった。チェックインの際に、どのようなプログラムが用意されているかなどの説明を10分ほど受け、部屋に案内された。ミニマルという言葉がぴったりであった。テレビも冷蔵庫も、お風呂はもちろんのこと洗面台すらない。ベッドで休むためには、畳んで置かれている敷布団、掛け布団、それに加えて枕にも自らシーツやカバーを掛けないといけない。一連の作業を終え、ようやくベッドに横たわり、天井を眺めながら建築家のことよりも、誰がこんなアイデアを考えたのかということが急激に気になり始めた。その日は3時起きで、7時間ほど波に揺られながらタコ釣りをしていたため、1時間後から始まるヨガに備えて少しでも体を休めたかったのだが頭が冴えてしまい眠るのを諦めざるを得なかった。話は少し変わるが、USJを立て直したことで有名な森岡毅の『確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか』を少し前に読み終えた。装丁が赤色のその本は、今、いろいろな本屋で平積みされている。その後すぐに、10年前に出版された『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』を購入して、現在3分の1ほど読み進めたところである。こちらは青色なので、シリーズ3冊目が出版される際には紫になるのであろうか。2冊ともにとにかく勉強になる。いかに日頃ビジネスについて考えていなかったかを痛感させられている。単に売り上げを増やすためにどのような手を打つかということではなく、どのような人に志高塾の教育を届けたいのか、ということに対しての戦略が私自身に皆無であった。このことに関しては、改めてじっくりと書くつもりでいるのだが、どうアピールするかについて思考を巡らせると、「自分がアピールしようとしていることを既存の生徒にきちんと提供できているのだろうか?」という問いが即座に浮かんでくる。志高塾の教育の質を上げるためにももっともっとアイデアを出さなければ、と少しずつもがき始めたところである。私自身がこの1, 2カ月そういう状態に置かれていることで、「ここ、すごい」となった。禅体験をするというコンセプトがあるため、部屋は豪華であってはならないのだ。もし、これを普通のホテルでやれば、こんな狭くて不便な部屋で、となるところが、逆にそれがプラスに作用しているのだ。また、精進料理であるため、材料費の掛かる肉を提供する必要も無い。その他、「朝のおつとめ」というプログラムもあり、6時45分から15分間ウッドデッキで自分の使ったヨガマットなどをタオルできれいにふかないといけない。夜ご飯の際に、配膳をしていた男性に「こんなすごいことを誰が考えたんですか?」という質問をぶつけた。仕掛け人は、パソナグループの創業者であり代表である南部靖之だったのだ。私が就職活動をしていた頃、ちょうど彼がメディアで取り上げられることが多く、当時何冊か本を読んだ。パソナは2020年に本社機能の一部を淡路島に移すことを発表し話題になった。賛否両論あったものの、人件費の削減や補助金目当てという否定的なものが多数を占めていた。今回、食堂で社員の方に話を聞いて初めて知ったのだが、その12年前の2008年に、日本の農業の活性化と独立就農支援のために「パソナチャレンジファームin淡路」をスタートさせていたのだ。また、掲げていた2024年5月末までに1200人移転の目標を達成し、新たに雇用した人も含めると約2000人に上ったとのこと。石破首相がどれだけ口にしても絵空事にしか感じられなかった地方創生。あの日あの場所でその一つの形を見た気がした。
ただ韻を踏みたいがために付けたタイトル。それに見合った文章にならず完全にタイトル負けである。悪しからず。