
2019.05.21Vol.398 学生講師の就職活動
『志高く』を書くにあたり、通常2, 3日前にはテーマを決めて、そこからそのことについてあれやこれやと頭の中で考え続ける。書き始めるのはほとんどが当日である。それとは別にそのときに少し気になっていることを冒頭に持ってくる。こちらに関しては、ほとんど思い付きなのだが、実際に言葉にし始めると伝いたいことが多くなり、かなりの字数を割くことになる。よって、今回は直接本題へ。
彼らの就職活動がうまく行けば嬉しい。当然のことである。その理由の1つは、身近な存在であるから。他人の幸せより、身近な人の幸せの方が大きな喜びを与えてくれる。もう1つの理由が、彼らが志高塾で働いてきたから。
以下は、ある男の子とのやり取りである。
「ところで、就職活動はどんな感じなん?」
「あんまりうまく行ってません」
「何でなん?」
「面接がうまく行かないことが続いて、最近は素の自分を出せていないよう気がします」
少し補足をすると、彼は、言葉自体は柔らかいのだが性格は頑固である。そこに大きなギャップがある。1年ぐらい前の出来事で、未だにネタにしている話題がある。小1の男の子の体験授業で添削を任せた際「ちゃんと考えてるの?」と何度か問いかけていた。文字にすると伝わらないが、詰問口調であった。私であれば「ちゃんと考えろよ!」となるが、体験授業に来た、しかも小学校に入学したての子にさすがにそんなことは言わない。通常であれば「あんなところには二度と行きたくない」となるのだが、その子の芯の強さも手伝って無事入塾となり、この一年間マイペースをまったく崩すことなく順調に成長している。
上のやり取りをしたのは、彼がそれなりに重要視していた会社の最終面接が終わった後で、「多分落ちました。手持ち(その時点でそれなりに進んでいるところ)が少なくなりました」と漏らしていた。ちなみにその会社は50人ぐらい採用するとのこと。それを聞き「どんなメンバーが受けに来てるか知らんけど、Aさんより優秀な人がそんなにもいるとは思われへん。普通に考えて25人以内には入るはずやけどなぁ」と返した。また、面接における自己の表現の仕方は私自身も苦労した覚えがある(私の場合、正確にはグループディスカッションで苦戦したのだが)ので、次のようなアドバイスをした。
「自分をそのまま出して、何度か落とされたら確かに自信がなくなる。Aさんが言っているように、自分をそのまま出したらアカンから、じゃあ他の自分で、となるのもよく分かる。ただ、そのときに自分ではない誰かじゃアカンで。それやったら自分を隠しているだけやから。そうではなくて、面接官がどのような人を求めているのかを読み込んで、その人を演じ切るのであればそれなりに意味があると思うけど。また、言葉は柔らかいけど実際は頑固なところが面白いのに(Aさんの価値やのに)、それを隠したら、単に自信がないからそんなしゃべり方なんや、と思われるで」
もう1つの理由である「彼らが志高塾で働いてきたから」について。添削や丸付け、月間報告を作成し続けることによって、彼らはそれをしなかった場合に比べて明らかに力を付けている。Aさんの月間報告は、働き始めた頃から論理的には問題はなかったのだが、自分の考えが前に出すぎていて、正直読みづらかった。それがこの半年、1年ぐらいは格段にレベルアップした。言いたいことを言わなくなったからではなく、読み手の立場に立って客観視できるようになったのだ。それによって、言いたいことが以前より伝わりやすくなった。今回、そのことを伝えた。「俺から見て、明らかに成長してるんだからもっと自信を持った方がいいよ」と。本人には、成長した、という実感はないらしいのだが。
彼らはいい仕事をしてくれているし、間違いなく優秀である。就職活動がうまく行こうがいかまいがその評価は変わらないのだが、一つの分かりやすい評価として就職活動ではうまく行ってほしい。彼らが他の一般的な学生より輝いていないはずはないのだ。1つ難しいのは、面接官が適切な能力を持っているか、ということである。もちろん、自分で選んでその会社を受けているので、それを言うのはある種言い訳にはなってしまうわけだが。数日前、彼は件の会社から予想に反して無事内々定が出たとの報告をしてくれた。おめでとう。
話は変わる。春休みにある講師から就職活動をするにあたり「私という人間の分析をして欲しい」と頼まれた。私にできることであれば、ということで快諾した。その彼女の良さは「アンバランスなバランスだ」ということを伝えた上で(当然のことながら、本文ではそのことをきちんと説明している)、面接などでうまく行かなかったとしても変にバランス良くしようとしたらアカンで、というような意味を込めて次のように文章を結んだ。
最後に、具体的なアドバイスをして終わりにする。まず、自分の短所を少しでも補おうとしないことである。自分の長所で勝負できる職を探すべきである。そこで良い評価が得られなければ、それは短所を補って余りあるほどに長所が魅力的でないということなので、さらに長所を伸ばせばいい。中途半端に下手くそな守備の上達を目指すのであれば、さらなる打撃力の向上を目指せばいい。
最後に、と言っておきながらもう1つだけ付け足す。この旅行中、ダン・ブラウンの『オリジン』を読んでいた。その中でビルバオのグッゲンハイム美術館に展示されているリチャード・セラの『ねじれた渦』が登場する。その渦の中を進むと、重たい金属が今にも自分の方の倒れてきそうな危なっかしさを感じるのだが、実はとても安定している、とあった。
就職活動の中でこれまでとはまた違う経験を積んだ彼らが、卒業までの残り1年弱、生徒達により良い授業をしてくれることを私は望んでいる。