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2021.05.18Vol.494 想定外で予定外は想定内?

 タイトルの説明をするなんて野暮な気がするがそこから。「想定外のことが起こり、『この人中々よう分かっとる(番外編)』は次回以降に持ち越すことになったのですが、その変更は想定内だったでしょうか?」と言うのがそれ。
 先週の土曜日、届け物をするために豊中校に立ち寄った。その際に講師から、「彼が(高1の)A君です」と紹介された。意見作文用の教材である『毎月新聞』の作文前のアイデア出しのためのやり取りを講師と行っていたので、勝手に割って入った。開校後しばらくは体験授業には赴いていたが、豊中校で実際の授業を行うのはほぼ初めての気がする。そのA君のお父様とお母様(お会いしたことはない)はこのブログをよく読んでくださっているばかりではなく、HP自体にもよく目を通してくださっており、先日、HPの誤りを先の講師経由で教えていただいていた。そのようなことを踏まえての「彼が」である。
 取り組んでいたのは、「文字が出す騒音」という文章を読んでのものであった。本文を要約すると次のようになる。「ボストンに長期滞在していた当時、大規模再開発中で工事があちこちで行われていたが、不思議なことに筆者はある種の静けさを感じていた。それと似たような経験をしたことがある気がしたものの思い出せなかった。ある日、オープンカフェで街並みをのんびりと眺めているときにふと気づいた。『在来線のグリーン車と同じだ』と。ボストンは目立つ広告を出すことが禁止されており、グリーン車は普通車と違い中吊りや壁の広告もないため、共に文字情報が少なかったのだ」。それに対して与えられたお題が「この話に出てくるように一見まったく関係がなさそうな状況なのに同じような感覚を持つ例を考え、それについて、四百字程度で作文をしなさい。もし、実際にそのように感じたことがなければ、想像して書きなさい。」というものだった。
 横槍を入れたのには2つ理由がある。1つが、彼であったから。そして、もう1つが、少し前に東洋経済オンラインで「頭のいい人と平凡な人で違う『頭の使い方』の差」というタイトルの記事(https://toyokeizai.net/articles/-/426478)を見つけて、近々にそれについて書こうとあれやこれやと考えていたから。その冒頭では次のようなことが述べられていた。
 「情報をうまく使うためには、絶えず意識して、自分の問題に置き換えていく訓練が有効です。
(中略)
 例えば、テレビ番組で、ある人の失敗談が放映されているとしたら、『自分も似たような経験をしたなあ』と思うのでもいいですし、逆に『自分はそういうこととは正反対のことをしているな』と気がつくだけでもいいのです。あるいは、『自分だったらそういうときにどうするのか』を考えてもいいでしょう。どんなことでもいいので、自分に置き換えて考えるクセをつけるのです。これが、情報を自分のものにしていくプロセスです。
 そうやって情報を自分のものにするクセをつけておくと、情報に含まれているさまざまなエピソードを、人生の教師にしたり反面教師にしたりできます。
 絶えず自分の問題に置き換えて考えていると、どんな情報でも役立てることができるようになってきます。」
 この記事は、柳川範之著『東大教授が教える知的に考える練習』という本が元になっている。購入したがまだ開けていなかったので、読み終えてから文章にする予定にしていた。という訳で、これまた予定外。
 A君に上の記事のことを紹介して、「俺より優秀な人と言うのは、俺より自分に置き換える訓練を日頃からしている人であり、逆にそうでない人はそれをしていない人だ」と持論を展開し、『毎月新聞』は正にその訓練になる、と続けた。『毎月新聞』には50弱の話が収められているのだが、この教材の課題だけはすべて私一人で考えた。偉そうに言ったものの私がしたのは、文章を読んで、「俺やったら、こういうことについて考えるだろうな」とパッと思いついたことをワードで打ち込んだだけで1話あたり5分前後しか掛けていないので、トータルしても5時間程度しか要していない。10年ほど前に作ったこともあり、生徒が苦戦しているときに「どれどれ」と自らが作成したお題を覗き込んでみても、何を書けば良いのかさっぱり分からない、ということがしょっちゅう起こる。そういうときは、「まっ、思いつきで作ったから、俺もよう分からん。頑張れ」と励まして大抵は終わりである。そのときも例に漏れず、「路駐してるから、はよ行かな」と尻尾を巻いてその場を去った。西北の生徒であれば、持ち越しても翌週にその続きができるが、そうではなかったため運転しながら思考を巡らせていた。すぐに2つ思い付いたので、車を止めて電話を掛けた。教室には他の生徒もいたため、A君を教室外に呼び出してもらい、指導している講師にも聞こえるようにスピーカーで次のような話をした。
 1つ目が、エピックゲームズとアップルの訴訟に関して。その数日前に、中学生の生徒から、その争いについてどう思うか、と質問されて答えていたことを思い出した。訴訟の背景はおおよそ次のようなもの。エピックゲームズが発売した人気ゲーム『フォートナイト』をアップルストアからダウンロードすると、30%の手数料が取られるため、値下げを要求したものの認められず、自社から直販できるようにしたところ、アップルストアから削除されたためにエピックスゲームズが訴えた。これに関しては、お馴染みの『飯田浩司のOK! Cozy up!』でコメンテーターが「この裁判がどうなるかはさておき(当然のことながら、どのような契約になっていたのかなども関係するため)、早晩アップルやグーグルが手数料を下げざるを得なくなる」と語っていたので、受け売りであることを断った上でその内容を伝え、さらに私の考えを追加した。「農家とJAの関係と構図は同じ。販売する場合はJAを通さないとダメで、苗や肥料、耕運機などを購入する場合もそう。そこで手数料が取られるから農家は儲からないが、最近ではそのようなしがらみから逃れて直販している農家も増えつつある」。2つ目が、ウーバーイーツの配達員の話。半年ほど前に、ブログの中で何の脈略もなく蟹工船を連想させる、という話を挿入した。そのときに、何を書いたかは覚えていないが、見かけがきれいなだけに(大きなカバンを背負ってはいるが、自転車を使っている人が多いため健康的なイメージを与える)余計に問題に感じていた。当時世間では、隙間の時間を有効活用してお金が稼げる、と言ったようなポジティブな意見が多かったが、最近になってようやく、労災保険や雇用保険などのセーフティーネットが脆弱であることが取り上げられるようになった。さもありなん。
 電話であったため、上の内容を整理しながら説明できたわけではないが、「俺が思いつくものとしてはこんな感じかな」ということは伝えられた。そして、今気づいた。上の2つの事例も「搾取」というキーワードで結びけられることに。考えることって楽ではないけど、やっぱ楽しい。私が生徒たちに最も伝えたいのはこのことなのかもしれない。

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