
2020.01.07Vol.429 理想-現実
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
年末に小、中の幼馴染と2年ぶりぐらいに会った。彼は私の1学年下で、同じ社宅に住み、同じ少年野球チーム、地域の子供会のソフトボールチームに所属し、近所の公園で野球やサッカーをして遊んだので、毎日のように、という言葉が比喩にならないぐらいに多くの時間を過ごした。
オフレコとのことなので、ここからの話は少々奥歯に物が挟まったようなものになってしまうが悪しからず。彼は、Jリーグのコーチを10年以上続けている。そして、最近初めて監督の話が舞い込んだ。最終候補の2人まで残ったものの、結果的に選手として日本代表経験があり、Jリーグでの監督経験もある人に競り負けた。多くの監督が守備的なサッカーを取り入れているのに対して、私の友人は攻撃的なサッカーを標榜している。単に理想を掲げているだけではなく、結果を出すためにはどのような選手にどのようなトレーニング積ませる必要があるのか、という方法論も持ち合わせている。そこが評価されてあるチームのフロントから声が掛かった。ただ、選考過程においてビジョンを共有するために話し合いを進めていく中で「まずは守備的なチームを作ってから、攻撃的に持って行ってはどうか?」、つまり「現実+理想でやってみないか?」と提案された。しかし、頑として譲らなかったのだ。それでは本当に目指しているチームにはならないからだ。それを聞いて「えーやん。絶対にそうすべきやったな」と返した。正直ちょっと感動した。いや、ちょっとどころではなかった。私であれば転がり込んできた話に飛びついていただろう。
プロの世界では実績のある監督が複数年契約を結んでいてもわずか数か月で首を切られてしまう、ということは往々にして起こる。選手として輝かしい実績のない彼が、自分の信念を曲げた上に結果を残せなかったとき、まず間違いなく次はない。一方で、自分のやりたいことを貫けば、仮に1年で首になったとしても、爪痕を残せる。差別化することや爪痕を残すことが目的ではなく、それは理想を追い求めたことによる結果なのだ。
ここで、2017~2019年の日本のJ1リーグにおける1位と6位の得点と失点を比べる。
2017年
1位 得点;71 失点;32
6位 得点;50 失点;30
2018年
1位 得点;57 失点;27
6位 得点;39 失点;34
2019年
1位 得点;68 失点;38
6位 得点;45 失点;29
6位のチームを対象にしたのは、18チームで構成されているため上位3分の1という区切りの順位(悪くない順位)だからだ。2017年と2019年に関しては、6位のチームの方が失点は少なく、2018年にしても大差はない。一方で、得点は3年共に1位のチームは6位のチームの約1.5倍である。このデータだけで結論を導くのは乱暴ではあるが、それなりの結果を出すには守備を安定させればいい。ただ、攻撃のレベルを上げないことには優勝はないのだ。
守備的というのは、我々に当てはめると10点の記述で3点しか取れない生徒に5点を目指させるようものである。そんな仕事は楽しくない。我々が楽しむことが目的ではないが、教えている我々自体がそうなのだから子供自身がワクワクするはずがない。受験の直前に数回指導するだけならそれでもいいが、そもそもそんな生徒の受け入れは行っていない。そんな仕事はしたくないから。中学受験までに2年、3年と付き合い、ありがたいことに最近ではその後も彼らと接し続けるチャンスをいただけている。「彼らを育てる」チャンスをふいにする権利は我々に与えられていない。
「現実+理想」というのは現実的だ。「+理想」というのは実際には「+αの理想」でしかない。一方で「理想-現実」は理想的だ。どの世界でも現実はそれほど甘くはないので、さすがに「-α」では済まないだろうが、心を込めて真剣に理想を追い求めた「理想-現実」は「現実+理想」の圧倒的に凌駕するはずなのだ。先の例でいえば、3点は5点にしかならず(そこに到達する可能性もそこまで高くはない)、10点にならなくとも7,8点は取れるようになる、ということである。
2019年、最後にパワーをもらった。2020年、「えーやん。絶対にそうすべきやったな」と偉そうに言い放った自分に恥じない自分でありたい。