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2021.08.17Vol.507 「無思の知」という原点

 ある辞書に、「無知の知」とは「自らの無知を自覚することが真の認識に至る道であるとする、ソクラテスの真理探究への基本になる考え方」とあった。つい最近まで、「『無知の知』って知ってるか?」と問われたら、恥ずかしながら「聞いたことはある」という程度の答えしかできなかったであろう。体験授業に来られた親御様に「志高塾における語彙というのは、『知っている』ではなく『使える(書ける、話せる)』言葉の量を指しています。それを増やすために間違えても良いので聞きかじったような程度のものでも作文の中で積極的に使わせます」という話をよくする。そして、「進学塾から与えられた語句集のようなものを丸暗記して記号問題に答えられるだけではだめで、折角覚えたのであれば活用しなければなりません」と続けることも少なくない。
 この夏期講習期間中は、例年になく中高生と授業外でいろいろな話をしている気がする。自分でもその原因が何なのかを掴めていないのだがとにかくそうなのだ。昨日は、事務仕事をしながら私の周りで自習をしていた高2のAさんと高1のB君と雑談をしていた。彼らは、それぞれ小学4、3年から通ってくれているので、揃って8年前後の付き合いになる。それだけ長いこともありブログにも何度か登場させている。2人は小学生時代、驚くほど集中力が無く、共にかなり手を焼かされたのだが、まるで別人のように今ではしっかりとしている。高校生なので当たり前と言ってしまえばそれまでなのだが、彼らなりの目標を持って進んで行っている姿を見られるのは嬉しい限りである。そのような成長の過程を直に見届けられることで、似たような小学生のお子様をお持ちで困り果てている親御様にも、根拠のない励ましではなく、「人によって成長のスピードは違います。たとえば、私がこれまで見てきた生徒の中には」という話をすることができる。ただ、放っていて勝手に良くなっていく可能性は高くないので、「成長するはず」という期待を胸に試行錯誤しながらその都度しかるべき手を打ち続けていってあげる必要はある。
 さて、その雑談。B君が学校課題の1,000字の書評のことで「何を書けば良いんですか?」と私に質問をしてきたことに端を発している。山﨑豊子の『沈まぬ太陽』と迷って東野圭吾の『容疑者Xの献身』にしたのだが、それはミスチョイス、というのが私の意見であった。その理由も説明したのだが、それについては割愛する。語句のことと話を絡めると、「2人がそれぞれよく使う言葉知ってる?」、「知りません」というやり取りをした上で「山﨑豊子 三白眼(さんぱくがん)」、「東野圭吾 踵(きびす)を返す」でググるとちゃんとヒットした。いずれも頻出していた上に、「三白眼」は彼女の著作を読むまではおそらく見たことも無かったし、「踵を返す」は念のために調べたので記憶に残っていたのであろう。
 無思の知。「無思(むし)」とは造語で、「考えていない」という意味である。「無考(むこう)」では語呂が良くないのでそのようにした。
 ご両親が医者である中1の女の子が、意見作文において「将来、自分のクリニックを経営したい」と意気揚々と書き始めたのは良いが、説得力持って訴えることはできなかった。「将来の夢(目標)」がテーマとして与えられれば何かしら具体的なものを提示しなければならないのだが、それ自体は何も考えていなくてもできることである。ユーチューバー、サッカー選手、お金持ちなどであれば園児でも思いつく。医者になりたいという子供の多くが、「人の役に立ちたい」、「人の命を救いたい」というのを理由に挙げるが、それこそ前者であれば多くの仕事が当てはまるし、後者に関しては極端な例だがビルゲイツのように財団を作って支援する方が貢献の度合いは高くなる。彼女に限らず、このテーマに限らず、意見作文に取り組み始めた中1の生徒が頭を抱えることは少なくない。そういう時は決まって、「俺なんて、就活のときですら自分が考えていないということが分かってなかったんやから、現時点でそれに気づけているということにはすごく価値がある」という声を掛ける。前述のAさんも同じように医者を目指しているのだが、それ以外のものを知らない。だから、「そのこと(今回で言えば、医者になること)を考えようと思えば、そうでないこと(医者以外のこと)を知らなければならない」ということを1週間ほど前にちょうど伝えていた。Pだけしか知らなくてPを選んでいるのと、QもRも知った上でPを選んでいるのとでは思い入れの強さが変わって来るからだ。
 「無思の知」に至ることで、「無思の思」への道が開ける。だが、単に考えるようになっただけでは不十分で考えられるようにならなければならない。生徒たちの思考を深めるためのサポートをするというのは、とても「人の役に立つ」仕事であると自負している。

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