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2022.07.05Vol.549 リベラルアーツと聞いて思うこと考えたこと

 「リベラルアーツとは何か」というようなタイトルにしようとしたのだが、それだと正しいことを書き連ねながらきちんとまとめる必要が生じるので、逃げの手を打った。生徒が同じようなことをしようものなら、「あのさ、そういうずるいことをするために言葉の感覚を磨いてるんとちゃうで。目の前の事柄ときちんと正対せなアカン」と厳しく指導いたしますので、ご心配には及びません。
 高校の3年間を海外の現地校で過ごした生徒が、ICU(国際基督教大学)を帰国生枠で受験するに当たり、志願理由書の作成を一緒に行っている。「一緒に」と言いつつ、実際は「こう書けば良い」と具体的内容を指示するような指導を行うところは少なくないが、志高塾ではそのようなことはしない。主な理由は2つである。
 1つ目は、その大学で自分はどのようなことを学びたいかを考える絶好のチャンスであるからだ。特にリベラルアーツに力を注ぎ、多様な学びができるICUではなおさらである。最初に、「HPをよく読みなさい。その際に、情報に飛びつかないようにしなさい」ということを伝えた。それは、「Vol.545意見作文の要諦」で紹介した、村上春樹の『職業としての小説家』の中の「『考えをめぐらせる』といっても、ものごとの是非や価値について早急に判断を下す必要はありません。結論みたいものはできるだけ留保し、先送りするように心がけます。大事なのは明瞭な結論を出すことではなく、そのものごとのありようを、素材=マテリアルとして、なるだけ現状に近い形で頭にありありと留めておくことです」に通ずる。志願理由書を書くという目的でHPを見ているのだが、「どれについて書こう」という考え方を捨てて、まずは全体をじっくりと見渡せば、そのうちに「あれが楽しそう」、「これは何か面白そうだ」というのが浮かび上がってくるはずなのだ。そうなった時点で、それ以外の可能性も残しつつ、「あれ」や「これ」を掘り下げて行けば良い。札幌で飲みに行った際、北海道の3つの産地の生牡蠣の食べ比べをしたのだが、結局どれもおいしかったのでまた同じものを頼んだ。何も考えずに口に運んでいたというのもあるが、それでもそれを繰り返していると、そのうちに「どれも良いけど、厚岸(あっけし)のやつが一番好みかも。じゃあ、次は盛り合わせではなくそれだけを3つにしよう」などとなったかもしれない。それが、「あれ」、「これ」、「それ」の中から1つを選ぶということである。甲乙つけがたいと思いつつ選択をしているので、仮に厚岸のものが売り切れていたら、「じゃあ、サロマ湖産にしよう」と前向きな切り替えができる。やりたいことを複数持っていれば、入学後、仮に自分の選んだ学部なり学科が合っていないとなっても積極的な変更をしやすくなる。もちろん、転部なり転科ができれば、の話ではあるが。事前の準備に時間を掛けていないと、外れる可能性も高くなり、やりたいと思い込んでいただけなのに「この大学でやりたいことは無くなった」となりかねない。大学受験のときや就職活動のとき、自分のやりたいことの見つけ方をまったく分かっていなかったので、「正しい道の選び方」ではなく、「いつか自分により合ったものを見つけられる道の選び方」なるものを少しでも生徒や大学生講師に伝えてあげられれば、と考えている。その他、オープンキャンパスの募集が定員に達して締め切られていたというのもあるが、情報はHPなど公開されているものから十分に取れる、という話をした。「テレビや映画だとスパイは有力な内通者を抱えている場合が多いが、実際は90%以上の情報を『オシント』(OSINT:Open source intelligence)と言って新聞やニュースなどの一般に公開されているものから入手しているらしい」と教えた。たとえば、今後のロシアの動きを推測するためには、プーチンの演説やロシア国営メディアの情報を参考にすることになる。これに関して、あるロシア研究家の「プーチンに重病説が流れているが、それは頭から消すようにしている。定かでないものを材料にすると、適切な判断ができなくなるからだ」という発言に「なるほど」となった。
 終盤に来てようやく2つ目の出番なのだが、我々が誘導すると面接で化けの皮が剝がれてしまうからだ。志高塾の採用面接において、「HPのどこをご覧になられましたか?また、それに関する感想を簡単で良いのでお聞かせください」という投げかけをすることは少なくないのだが、よく見ていない人ほど、具体的な点を1つ挙げ、「あそこに書かれていることに共感しました」などとそれっぽい発言をする。直後に、「他には?」と質問した時点で「実は、あまり見ていません」となる。逆に、時間を掛けた人は、全体を面で捉えていることが伝わってくる。アルバイトの面接でそこまでする必要があるのか、ということはこの際横に置いておく。前者のタイプの人は、それが有効な手段でないことに気付かないままに基本どこでも同じようなことをするはずである。もしかすると、先の生徒の志願理由書をこちら側で作成し、面接用の想定問答などを用意して、練習を行う方がトータルの時間は短縮できるかもしれない。しかし、多くの重要なことがそうであるように、時間の多寡ではなく、掛けた時間にどれだけの価値があるかが大事なのだ。
 「リベラルアーツが単なる点にしか見えないぐらいだいぶ遠くに見据えて」の方が良かったかも。

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